2018.1.14 よなは徹@Live & Shot.Bar Tarumassyu

2018年01月14日/ よなは徹

2018.1.14 よなは徹「たったひとり歌会 vol.52」@Live & Shot.Bar Tarumassyu

2018.1.14 よなは徹@Live & Shot.Bar Tarumassyu

新年2日の那覇空港。トンボ返りで東京へ戻るフライトへの搭乗を促すアナウンスに急かされる様にゲートに向かう中、ふと足が止まったのはロビーのテレビから流れてきた「かぎやで風節」の音でした。正月特番なのかゆったりした琉球舞踊の流れが映し出されていて、今年もお笑い番組に腹を抱えて爆笑しているうちに新しい年を迎えてしまっていただけに、まるで「春の海」の琴の音色を耳にしたかのように一気に正月気分が高まったのです。ボーディングブリッジへと足早に歩きながら、今年最初のライヴはよなは徹さんのライヴだから、この曲が聴かれるかもしれないとニンマリしたのです。

2018.1.14 よなは徹@Live & Shot.Bar Tarumassyu

小正月前夜、期待を胸に駆けつけた西大井タルマッシュ。ほぼ開演時間に黒いモノトーンで統一したいでたちの徹さんがステージに登場。オープニングのイントロでもう鳥肌です。そうです、新年最初の生音は期待通りの「かぎやで風節」です。「あらたまの年に 炭と昆布かざて こころからすがた若くなゆさ」という正月用の歌詞で歌われた沖縄の正月になくてはならないこの曲を最初に聴くことはある意味念願でした。以前、新良幸人さんの新年最初のライヴで八重山を代表する正月祝い歌「鷲ぬ鳥」を聴くことができ、その時も同じように鳥肌ものだったのですが、これでコンプリートです。続いて同じく琉球王府の時代に宮廷祝儀の際、国王の前で演奏された「御前風五節」と呼ばれる中の1曲「恩納節」へ。もしかしたらこの5曲を一気に聴かれるのかなと思ったら、これには含まれない祝儀曲「揚竹田節」へ。もうこの3曲で華やいだ雰囲気になりました。

2018.1.14 よなは徹@Live & Shot.Bar Tarumassyu

「沖縄では旧暦で祝うのでまだ年は明けてないので、忘年会であり新年会である時期です」という挨拶から、以前作った「正月の歌」というナンバーへ。なんでも今年戌年という歌詞があり12年前にできた曲でそれからあまり唄っていないという貴重な曲です。春のエッセンスあふれた「梅の香り」「貫花(ぬちばな)」、そして毎回このひとり歌会はセットリストは決めずに会場の雰囲気を見ながら次に唄う曲を考えるという話から「南嶽節(なんだきぶし)」という古典曲へ。今夜は一番前の横の席に座る事ができ、音だけでなくいつも感じる徹さんの演奏する時の心地よいまでにピンと伸びた背筋の姿勢の良さ、艶やかなまでに滑らかに動く左手の指の美しさに見とれてしまいました。

2018.1.14 よなは徹@Live & Shot.Bar Tarumassyu

続いては昭和の初めに作られた曲「移民小唄」。この曲は歌詞が沖縄の方言ではなく標準語で書かれており、当時方言で歌詞を書くとスパイ容疑がかけられたからだという解説にびっくりです。そして同じく移民の心情を歌った「南洋小唄」へ。こういう歴史の断面が詰まった歌詞は、当時の人たちの心に強く訴えかけるものがあったのだろうなぁという事を考えながら聴き入りました。一部のラストは雄大な歌詞を持つ「白雲節」です。この曲も最近いろいろなアーティストのライヴで聴く機会があり大好きなナンバーになってきています。

2018.1.14 よなは徹@Live & Shot.Bar Tarumassyu

休憩を挟んでの二部は「あんやんてぃんどう」でスタート。休憩の間に何を唄おうか考えて、照屋林助さんのナンバーを集めてみましたという事で「あやかり節」「村はじし」「かてーむん」と、息子さんのりんけんバンドも取り上げていたりしてお馴染みの曲が続きます。先月同じ会場で聴いた金城優里英さんのライヴで感じてその時のレポートにも書きましたが、もちろんリアルタイムで聴いていたわけでもないし、ましてや沖縄音楽新参者の自分にとって、こうして今お気に入りのアーティストの方たちがステージで先人たちの残してくれた素晴らしい曲を紹介して聴かせてくれる事は本当に嬉しい事ですし、これも「伝承」という事だと思うのです。そんな今のアーティストが生み出している曲も何十年後かに歌い継がれていると考えると、なんだかとてもワクワクしますし、できる事なら雲の上から聴いてみたいとさえ思います。

2018.1.14 よなは徹@Live & Shot.Bar Tarumassyu

てるりんさんのナンバーが続いたら外せないのは徹さんが伝承されている曲弾き、「恩納節」を唄い弾きながら三線の品定めをする「鑑定弾き」の妙技です。三線をくるっと回して左右持ち替えてそのまま演奏したり、胴を手前に竿の反り具合を目視しながら弾いたりと、面白おかしい動作の中に半端なテクニックでは絶対に不可能な技術が凝縮している演奏で、何度目に耳にしても開いた口が塞がらない演目です。

2018.1.14 よなは徹@Live & Shot.Bar Tarumassyu

てるりんコーナーが終わりここからは普通の曲をと「チョンチョン節」へ。「チョンチョンキジムナー」としてお馴染みのこの曲「チョンチョン節」という名前だったのですね。恥ずかしながら初めて知りました。映画「ナビィの恋」エンディングで登川誠仁さんが唄われて出会った「ヤッチャー小」、そしてその曲が土地が変わり歌詞も変わったという「具志川小唄」と続いたのですが、一瞬要はパクリなのかなと思ったものの、良く考えれば譜面とか音源ではなく歌が歌として伝わっていく過程で変化していった時代なのだと考えるととても興味深い現象です。興味深いと言えば、続く「富原ナークニー」を聴いていて考えたのですが「ナークニー」とつく曲はたくさんあるのですが、漢字だと「宮古根」と書くのですよね。これは宮古がルーツという意味なのかな。これもじっくりと調べてみたい課題であり、ライヴで沖縄の民謡を聴いて初めて聴く曲に出会い、方言で唄われている歌詞の意味や背景を紐解くうちに数々の疑問が出てくるのです。それを調べていくのがまた楽しいですし、学問や研究などという大それたものではないのですが、ちょっとかっこつけちゃうと知的好奇心をくすぐりまくられるのです。こんなところが自分にとっての沖縄民謡ライヴの魅力でもあります。

2018.1.14 よなは徹@Live & Shot.Bar Tarumassyu

ラストに持ってきたのは「ハンタ原」。途中から早弾きになっていくのですが、それはもう呼吸をするのを忘れて見入ってしまうほどの指使いです。そんな時でも姿態が一切ぶれずに軸がピン通ったままの徹さんの演奏にはもう惚れ惚れしてしまいます。最後の一音の余韻が消えてやっと無酸素聴視から解放され我に返り、力いっぱいの拍手で熱演に応えました。

2018.1.14 よなは徹@Live & Shot.Bar Tarumassyu

アンコールは更に早弾きが冴えまくる「遊び天川」です。この曲はいつも思うのですが唄だけで考えるとものすごくゆったりとしており、ひとつひとつの言葉が息の続くギリギリまで引っ張るように伸びていくものなのに、三線の音数は異様なまでに多い。これを同時にやるんだからもう開いた口が塞がりません。このままお約束のように「唐船どーい」に続くのかなぁと思ったのですが、ビシッとこの曲で終わらせてくれました。決して「唐船どーい」が嫌いなのではないのです。もう初めの頃はそれが楽しみで徹さんのライヴに行っていましたし、何度聴いても、今でも圧巻なことには違いありません。ただあの「立つ?カチャーシー?」みたいな空気感は場所や雰囲気を選ぶと思うのです。そして今宵の、自分を含めて徹さんの唄三線をじっくりと聴きたいという思いのお客さんで埋まっていた会場では、これでよかったと思いましたし、これが徹さんが仰っていた「何も決めずにその場の雰囲気で曲を決める」という事なのだとわかり、天晴れ!と膝を叩きそうになりました。

2018.1.14 よなは徹@Live & Shot.Bar Tarumassyu

今年のライヴ始めが徹さんのこんな華やかで素敵なライヴであったことが心底嬉しかったです。それは平成30年も、たくさんの良いライヴに恵まれ、たくさんの新たな今まで知らなかった名曲に出会えることを予感させてくれるようでした。中学生の頃からライヴ通いに目覚め四十数年、ずっと知っている曲、好きな曲であふれたセットに興奮してきましたが、ここのところライヴで初めて出会う曲にハマってそこから好きになっていく悦びを知り、それが楽しみにさえなってきました。そして今夜新たに生まれたいくつかの「?」という課題を楽しみながら探究していきたいと思います。


同じカテゴリー(よなは徹)の記事

Posted by Ken2 at 23:59│Comments(0)
上の画像に書かれている文字を入力して下さい
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。