2017.6.7 STING@日本武道館
2017年06月07日/ 洋楽
2017.6.7 STING "57TH & 9TH TOUR"@日本武道館

開演定刻に客電が落ち歓声に包まれた満員の武道館のステージに、アコギを提げたスティングが音もなくさらっと登場しました。そして最新アルバム「ニューヨーク9番街57丁目」の「ヘディング・サウス・オン・ザ・グレート・ノース・ロード」を弾き語りで歌い始めました。なんという幕開けでしょう。まるで何日も前からこの瞬間に向けてテンションが上がって来て、この瞬間に封印を解こうとしていた自分に「まぁまぁ、落ち着け」と言われているかのようです。それほどまでに今日という日を待ち焦がれていました。ポリス解散後、いろいろなタイプ音楽を表現方法として用いてきたスティングですが、自分にとってスティングはポリスであり、他に類を見ないまでにかっこいいロッカーであるのです。13年ぶりにロックアルバムをリリースしての今回のワールドツアーは、自分が見たい、聴きたいスティングのステージを展開してくれるはずです。気持ちが高ぶらないはずがありません。このオープニングは意表を突きながらも最上級のスタートでした。

この1曲を終え「コンバンワ トウキョー!ワタシノムスコ ジョー・サムナー!」とサポートしていた息子のジョーを紹介しステージを後にし、ここからはオープニング・アクトとしてのジョーのセットです。声質親父に似ているよなぁ~と言う以外は特筆する事もない彼が数曲歌いった後「ワタシノ トモダチ The Last Bandoleros!」と呼び込み、もう1組のオープニング・アクトのラスト・バンドレロスが登場し1曲共演しジョーもはけてこのバンドのセット。テックスメックス風のバンドながらも方向性がよくわからず正直退屈な時間で、これで終わり?まだやるの?と2組トータルで40分ちょいのセットは、日本公演が発表されてから今日までの半年間よりも長く感じたほどでした。ここで20分ほどの休憩が入り、自分には休むというよりも一時的に落ち着いた気持ちを再び短時間で沸点へと上げていく時間でした。

19:30を回った頃いよいよその時がやって来ました。暗くなった時点でアリーナは総立ちです。ギター2人とドラムス、そしてジョーとラスト・バンドレロスの数名がバックヴォーカルとしてスタンバイするとイントロと共にスティングの登場です!1曲目から「シンクロニシティーII」という必殺技で攻めてきて♪Yo~oh~oh~とスティングの声が響くと自分の中では完全ポリスのライヴの始まりです。もちろんポリスではないし、メンバーも繰り出される音も違うし、アレンジさえ違うのですが、もうそんな当たり前の事がすっ飛ぶ程のオープニングです。さらに立て続けにまさかの「マテリアル・ワールド」をぶち込んで来たのでもうたまりません。2曲目にして早くも酸欠状態です。1曲めではアルバム「シンクロニシティー」のシンボルカラーである赤、青、黄色のライティングが鮮やかにステージを輝かせており、続くこの曲では黒幕バックのステージに赤い照明が浮かび上がり収録アルバム「ゴースト・イン・ザ・マシーン」のジャケットを彷彿とさせる演出です。スクリーンなどの余計な演出は無く、センスの良い的を得た照明だけで何よりも音だけの直球勝負です。
そのライティングが青、赤、白のユニオンジャック3色に変わり、同時に星条旗の3色でもあるこのコンビネーションの下で始まったのは「イングリッシュマン・イン・ニューヨーク」です。そうだ、今夜はスティングのコンサートなんだよなぁと冒頭2曲での酸欠と急上昇した血圧を少し落ち着かせながら、この名曲に酔いしれます。今回はサポートメンバーがオリジナルとは異なるためアレンジは変わっていたもののこの曲が名曲であることには変わらず、特に最後の部分"Be yourself no matter what they say (周りがどうこう言おうと自分自身でいなさい)"の部分を繰り返しての場内大合唱はゾクゾクきちゃいました。

昨年発表されロッカーとしてのスティングの回帰を高らか告げてくれた「アイ・キャント・ストップ・シンキング・アバウト・ユー」がここで早くも登場。この曲、そしてアルバム「ニューヨーク9番街57丁目」はゴキゲンな作品であることは間違いないし愛聴盤ではあるのですが、例えばポリス時代の曲とはいかんせん共に歩んで来た年数が違い、思い入れ度が違います。これだけ愛聴しながらも割とあっさりと受け止めちょっとだけ呼吸も落ち着きました。と思ったら次はまさかの「マジック」!!想定外のセットインにどうしていいかわからず思わずピョンピョンと飛び跳ねながら叫んでいました。ポリス4枚目に収められているこの曲は、当初アルバムの中では異質な気がしていましたがポリスの中でも後期では特に好きなナンバーです。前が立って見えないから立っているという程度の観客が多い中、ひとりもう完全に周りとは違うノリになってしまい汗だくです。この曲の後に、眼鏡外して汗拭いていたら、斜め前の外国人のお兄さんが振り返って笑顔で親指立てて"Good Job!"と声をかけて来た程です。
ここからは長いキャリアのソロナンバーが新旧取り混ぜて並びます。新作からの印象的なナンバー「ワン・ファイン・デイ」、93年「テン・サムナーズ・テイルズ」からのロックンロールナンバー「シーズ・トゥー・グッド・フォー・ミー」、その前のアルバム「ソウル・ケージ」から「マッド・アバウト・ユー」と続き、それぞれ違った表情を持った曲なのですが、改めてこの人の書く曲ってなんてクオリティが高いのだろうと痛感しました。続く「フィールズ・オブ・ゴールド」に至ってはもう涙腺崩壊しそうなくらいの素晴らしさです。新作からの「ペトロール・ヘッド」「ダウン、ダウン、ダウン」で持ち堪えた涙腺だったのですが、アコギ2本音が絡む美しいイントロから始まる「シェイプ・オブ・マイ・ハート」で限界に達して決壊です。こんなに染み渡る曲書いてくれてありがとう!今夜歌ってくれてありがとう!!と陳腐な言葉でしか表せないのですが、胸がいっぱいになるような気持ちでした。

余韻に痺れていると、カウントを刻むドラムスのビート!そしてこのギター!! 自分にとってカッコいいとはこういう事だぜという曲「孤独のメッセージ」です。その定義は40年近く経った今でも変わる事は無く、もう身体中の穴という穴からアドレナリンが噴き出す程の興奮です。それだけの時を経ている曲なのに懐かしさは微塵も感じないのは、自分の中でずっと一緒に生き続けているからなのでしょう。過去のスティングとしてのライヴで、アンコールにアコギ一本で弾き語りで歌われたりもしましたが、やはり違うのです。この疾走感がなきゃダメなのです。50代半ばの自分のどこにこんなエネルギーがあったのだろうと驚くほどノリまくりましたが、終わった時にははぁはぁと息切れしていました。
そんな昂りを落ち着かせると同時に、オープニングからここまでMCらしい語りも無く歌いっぱなしのスティングにとってもブレイクなのでしょうが、息子のジョーが呼ばれ演奏されたのは、なんとデヴィッド・ボウイーの「アッシェズ・トゥー・アッシェズ」です。途中からスティングも戻って来てヴォーカルに加わり昨年星に帰って行った偉大なるアーティストへの追悼です。そこからメドレーで新作に収められているナンバーで、プリンスが亡くなった週に書かれたという「50,000」へと続いていったのですが、この時はステージ全体が紫色に包まれたのが印象的でした。

そしてここからフィナーレへと向かってグングンいきます。リズム乗ってスティングのone! two! three!!のカウントからおなじみのベースライン。イントロからスティングの♪イョーヨ!!の声に条件反射的にレスポンスしてしまう「ウォーキング・オン・ザ・ムーン」です。まだまだバテている場合ではなく、もちろんサビの部分は激しく縦ノリです。ゆっくりと場内を照らすライトが武道館の天井に満月を映し出しそれは幻想的な眺めでした。息を整える間もなく、衝撃的なデビューアルバム「アウトランドス・ダムール」から、最初この曲だけキーが低くなっていてなんだかわからなかった「ソー・ロンリー」へ。拳突き上げながら縦ノリで跳び続ける自分はきっと体内は十代の頃のパワー分泌が行われていたのでしょう。いくら飛んで跳ねて歌って暴れても限界に達しません。もこうなったらいけるとこまでいってしまえ!帰宅して寝込んでもいいや!とさえ思いました。
このままポリスの曲でラストまでいっちゃうのかなと思ったら、アラビックなイントロからのダンサブルなソロ作品「デザート・ローズ」です。後方に向かって放たれた幾筋ものライトが天井にデザート・ローズの花を咲かせます。ラスト・バンドレロスのアコーディオンプレイヤーも加わり、さらにエキゾチックでダイナミックな演奏です。

そして乾いたギターのイントロ。いよいよポリスと出会った曲「ロクサーヌ」。もう込み上げてくるものがありました。自分にとって未だに揺るぐ事の無い人生のベストコンサート、忘れもしない1981年2月2日、彼らの2度目の来日公演、東京はこの日本武道館で行われてたのです。同じアリーナで36年の時を経ての「ロクサーヌ」は記憶が蘇ったというのとも違う、自分がその時にいるような錯覚をしたのです。実際、今夜のこの曲のアレンジは若干ゆっくりとしていたのですが、サビ部分で縦ノリになった瞬間、脳は1981年だったのでその時の速いリズム跳ねてしまい、現代のスピードに修正するまで側から見ればものすごくリズム感の悪い人になっていたはずです。途中ビル・ウィザースの「エイント・ノー・サンシャイン」を挟み、もちろんお約束の♪ロクサーヌのコール&レスポンスもあり、最後はサーチライトが場内を回る中縦ノリの大盛り上がりです。もうカッコよすぎです!非の打ち所がありません。ピークに達して針振り切った状態で本編終了です。

<1981年2月2日日本武道館。矢印が19歳の自分です。>
まだまだ終わって欲しくない。まだまだ跳ねられるし、拳を振り上げられる。アンコールに応えて早々に戻って来てくれ、ドラムスから叩き出されたイントロは80年にセカンドアルバム「白いレガッタ」を引っさげて初来日してくれた時のライヴのオープニング・ナンバーだった「ネクスト・トゥー・ユー」です。アンコールの拍手の間深呼吸していたのですが、この曲を持ってこられたら漫画でよくある、頭のてっぺんで火山が爆発しているような気持ちでした。

そして、あ、そうかこの曲があったよねという感じで始まった史上最強のストーカーソング「見つめていたい」に場内は今日一番の歓声に包まれました。スタンドのお客さんが始めたスマホのライトを照らす数がどんどん増えてゆき、武道館いっぱいに星空が広がったかのようでした。終わるとメンバー全員並んでのご挨拶。うーん、やはりポリス最大のヒット曲となったこの曲で終わりなのかぁ…。

まだまだ止まらないアンコール拍手。最後にガツンと「キャント・スタンド・ルージング・ユー」から「白いレガッタ」「ビー・マイ・ガール サリー」へのメドレーなんかやってくれたらもうここでぶっ倒れても本望だとさえ思っていましたが、そうだ今夜はスティングのコンサートだった。アコギを手にステージに戻って来たスティングが静かに奏で始めたのは「フラジャイル」でした。うん、これもいい…いや、これの方がいい!とガツンとなどと思っていた前言撤回です。それほどの素晴らしさです。この曲の歌詞に込められた思い、そしてそれを最後に持ってきたのは、現在のこの世界に対するスティングからの警告なのかもしれません。ゾクゾクするほど素晴らしい「フラジャイル」の最後の一音が耳の奥で消えた時はため息しか出ず、力一杯の拍手と共に頼むからこのまま終わってとさえ思ったのです。この気持ちのまま武道館を後にしたかったのです。場内の電気がつき終演を告げるアナウンスとともに、再度大きくため息をつきました。

良いライヴだったとか、楽しかったなどと言う言葉とは明らかにレベルの違う時間でした。もちろん内容は文句なく素晴らしかったには違いないのですが、そこに色々な想いが加わっているからなのでしょう。最近自分が行く洋楽のコンサートも学生時代に大好きなアーティストを何十何年ぶりに見るというものが多くノスタルジックな部分があるのですが、スティングに関してもポリス時代から40年の付き合いであるものの前述のように懐かしいという感覚は全くありませんでした。リアルタイムでポリスと出会い、ずっとアイドルと言ってもいいような存在であり、スティング自身の活動も、ファンとして聴き続けている自分も中断することなく綿々と続いている事もあると思うし、新作のツアーでありながら集大成的な内容で、何よりも自分が望むロッカーとしてのスティングのライヴだった事も大きいと思います。現状を考えて、これだけの条件をすべて満たしてくれるアーティストは唯一無二です。それが今夜のコンサートが「レベルが違う」と感じた所以です。言葉にすれば簡単なのですが、これ以上の賛辞は思いつきません。

- SETLIST -
Heading South on the Great North Road
Synchronicity II
Spirits in the Material World
Englishman in New York
I Can't Stop Thinking About You
Every Little Thing She Does is Magic
One Fine Day
She's Too Good For Me
Mad About You
Fields of Gold
Petrol Head
Down, Down, Down
Shape of My Heart
Message in a Bottle
Ashes to Ashes
50,000
Walking on the Moon
So Lonely
Desert Rose
Roxanne / Ain't No Sunshine
Next to You
Every Breath You Take
Fragile
開演定刻に客電が落ち歓声に包まれた満員の武道館のステージに、アコギを提げたスティングが音もなくさらっと登場しました。そして最新アルバム「ニューヨーク9番街57丁目」の「ヘディング・サウス・オン・ザ・グレート・ノース・ロード」を弾き語りで歌い始めました。なんという幕開けでしょう。まるで何日も前からこの瞬間に向けてテンションが上がって来て、この瞬間に封印を解こうとしていた自分に「まぁまぁ、落ち着け」と言われているかのようです。それほどまでに今日という日を待ち焦がれていました。ポリス解散後、いろいろなタイプ音楽を表現方法として用いてきたスティングですが、自分にとってスティングはポリスであり、他に類を見ないまでにかっこいいロッカーであるのです。13年ぶりにロックアルバムをリリースしての今回のワールドツアーは、自分が見たい、聴きたいスティングのステージを展開してくれるはずです。気持ちが高ぶらないはずがありません。このオープニングは意表を突きながらも最上級のスタートでした。
この1曲を終え「コンバンワ トウキョー!ワタシノムスコ ジョー・サムナー!」とサポートしていた息子のジョーを紹介しステージを後にし、ここからはオープニング・アクトとしてのジョーのセットです。声質親父に似ているよなぁ~と言う以外は特筆する事もない彼が数曲歌いった後「ワタシノ トモダチ The Last Bandoleros!」と呼び込み、もう1組のオープニング・アクトのラスト・バンドレロスが登場し1曲共演しジョーもはけてこのバンドのセット。テックスメックス風のバンドながらも方向性がよくわからず正直退屈な時間で、これで終わり?まだやるの?と2組トータルで40分ちょいのセットは、日本公演が発表されてから今日までの半年間よりも長く感じたほどでした。ここで20分ほどの休憩が入り、自分には休むというよりも一時的に落ち着いた気持ちを再び短時間で沸点へと上げていく時間でした。
19:30を回った頃いよいよその時がやって来ました。暗くなった時点でアリーナは総立ちです。ギター2人とドラムス、そしてジョーとラスト・バンドレロスの数名がバックヴォーカルとしてスタンバイするとイントロと共にスティングの登場です!1曲目から「シンクロニシティーII」という必殺技で攻めてきて♪Yo~oh~oh~とスティングの声が響くと自分の中では完全ポリスのライヴの始まりです。もちろんポリスではないし、メンバーも繰り出される音も違うし、アレンジさえ違うのですが、もうそんな当たり前の事がすっ飛ぶ程のオープニングです。さらに立て続けにまさかの「マテリアル・ワールド」をぶち込んで来たのでもうたまりません。2曲目にして早くも酸欠状態です。1曲めではアルバム「シンクロニシティー」のシンボルカラーである赤、青、黄色のライティングが鮮やかにステージを輝かせており、続くこの曲では黒幕バックのステージに赤い照明が浮かび上がり収録アルバム「ゴースト・イン・ザ・マシーン」のジャケットを彷彿とさせる演出です。スクリーンなどの余計な演出は無く、センスの良い的を得た照明だけで何よりも音だけの直球勝負です。
そのライティングが青、赤、白のユニオンジャック3色に変わり、同時に星条旗の3色でもあるこのコンビネーションの下で始まったのは「イングリッシュマン・イン・ニューヨーク」です。そうだ、今夜はスティングのコンサートなんだよなぁと冒頭2曲での酸欠と急上昇した血圧を少し落ち着かせながら、この名曲に酔いしれます。今回はサポートメンバーがオリジナルとは異なるためアレンジは変わっていたもののこの曲が名曲であることには変わらず、特に最後の部分"Be yourself no matter what they say (周りがどうこう言おうと自分自身でいなさい)"の部分を繰り返しての場内大合唱はゾクゾクきちゃいました。
昨年発表されロッカーとしてのスティングの回帰を高らか告げてくれた「アイ・キャント・ストップ・シンキング・アバウト・ユー」がここで早くも登場。この曲、そしてアルバム「ニューヨーク9番街57丁目」はゴキゲンな作品であることは間違いないし愛聴盤ではあるのですが、例えばポリス時代の曲とはいかんせん共に歩んで来た年数が違い、思い入れ度が違います。これだけ愛聴しながらも割とあっさりと受け止めちょっとだけ呼吸も落ち着きました。と思ったら次はまさかの「マジック」!!想定外のセットインにどうしていいかわからず思わずピョンピョンと飛び跳ねながら叫んでいました。ポリス4枚目に収められているこの曲は、当初アルバムの中では異質な気がしていましたがポリスの中でも後期では特に好きなナンバーです。前が立って見えないから立っているという程度の観客が多い中、ひとりもう完全に周りとは違うノリになってしまい汗だくです。この曲の後に、眼鏡外して汗拭いていたら、斜め前の外国人のお兄さんが振り返って笑顔で親指立てて"Good Job!"と声をかけて来た程です。
ここからは長いキャリアのソロナンバーが新旧取り混ぜて並びます。新作からの印象的なナンバー「ワン・ファイン・デイ」、93年「テン・サムナーズ・テイルズ」からのロックンロールナンバー「シーズ・トゥー・グッド・フォー・ミー」、その前のアルバム「ソウル・ケージ」から「マッド・アバウト・ユー」と続き、それぞれ違った表情を持った曲なのですが、改めてこの人の書く曲ってなんてクオリティが高いのだろうと痛感しました。続く「フィールズ・オブ・ゴールド」に至ってはもう涙腺崩壊しそうなくらいの素晴らしさです。新作からの「ペトロール・ヘッド」「ダウン、ダウン、ダウン」で持ち堪えた涙腺だったのですが、アコギ2本音が絡む美しいイントロから始まる「シェイプ・オブ・マイ・ハート」で限界に達して決壊です。こんなに染み渡る曲書いてくれてありがとう!今夜歌ってくれてありがとう!!と陳腐な言葉でしか表せないのですが、胸がいっぱいになるような気持ちでした。
余韻に痺れていると、カウントを刻むドラムスのビート!そしてこのギター!! 自分にとってカッコいいとはこういう事だぜという曲「孤独のメッセージ」です。その定義は40年近く経った今でも変わる事は無く、もう身体中の穴という穴からアドレナリンが噴き出す程の興奮です。それだけの時を経ている曲なのに懐かしさは微塵も感じないのは、自分の中でずっと一緒に生き続けているからなのでしょう。過去のスティングとしてのライヴで、アンコールにアコギ一本で弾き語りで歌われたりもしましたが、やはり違うのです。この疾走感がなきゃダメなのです。50代半ばの自分のどこにこんなエネルギーがあったのだろうと驚くほどノリまくりましたが、終わった時にははぁはぁと息切れしていました。
そんな昂りを落ち着かせると同時に、オープニングからここまでMCらしい語りも無く歌いっぱなしのスティングにとってもブレイクなのでしょうが、息子のジョーが呼ばれ演奏されたのは、なんとデヴィッド・ボウイーの「アッシェズ・トゥー・アッシェズ」です。途中からスティングも戻って来てヴォーカルに加わり昨年星に帰って行った偉大なるアーティストへの追悼です。そこからメドレーで新作に収められているナンバーで、プリンスが亡くなった週に書かれたという「50,000」へと続いていったのですが、この時はステージ全体が紫色に包まれたのが印象的でした。
そしてここからフィナーレへと向かってグングンいきます。リズム乗ってスティングのone! two! three!!のカウントからおなじみのベースライン。イントロからスティングの♪イョーヨ!!の声に条件反射的にレスポンスしてしまう「ウォーキング・オン・ザ・ムーン」です。まだまだバテている場合ではなく、もちろんサビの部分は激しく縦ノリです。ゆっくりと場内を照らすライトが武道館の天井に満月を映し出しそれは幻想的な眺めでした。息を整える間もなく、衝撃的なデビューアルバム「アウトランドス・ダムール」から、最初この曲だけキーが低くなっていてなんだかわからなかった「ソー・ロンリー」へ。拳突き上げながら縦ノリで跳び続ける自分はきっと体内は十代の頃のパワー分泌が行われていたのでしょう。いくら飛んで跳ねて歌って暴れても限界に達しません。もこうなったらいけるとこまでいってしまえ!帰宅して寝込んでもいいや!とさえ思いました。
このままポリスの曲でラストまでいっちゃうのかなと思ったら、アラビックなイントロからのダンサブルなソロ作品「デザート・ローズ」です。後方に向かって放たれた幾筋ものライトが天井にデザート・ローズの花を咲かせます。ラスト・バンドレロスのアコーディオンプレイヤーも加わり、さらにエキゾチックでダイナミックな演奏です。
そして乾いたギターのイントロ。いよいよポリスと出会った曲「ロクサーヌ」。もう込み上げてくるものがありました。自分にとって未だに揺るぐ事の無い人生のベストコンサート、忘れもしない1981年2月2日、彼らの2度目の来日公演、東京はこの日本武道館で行われてたのです。同じアリーナで36年の時を経ての「ロクサーヌ」は記憶が蘇ったというのとも違う、自分がその時にいるような錯覚をしたのです。実際、今夜のこの曲のアレンジは若干ゆっくりとしていたのですが、サビ部分で縦ノリになった瞬間、脳は1981年だったのでその時の速いリズム跳ねてしまい、現代のスピードに修正するまで側から見ればものすごくリズム感の悪い人になっていたはずです。途中ビル・ウィザースの「エイント・ノー・サンシャイン」を挟み、もちろんお約束の♪ロクサーヌのコール&レスポンスもあり、最後はサーチライトが場内を回る中縦ノリの大盛り上がりです。もうカッコよすぎです!非の打ち所がありません。ピークに達して針振り切った状態で本編終了です。

<1981年2月2日日本武道館。矢印が19歳の自分です。>
まだまだ終わって欲しくない。まだまだ跳ねられるし、拳を振り上げられる。アンコールに応えて早々に戻って来てくれ、ドラムスから叩き出されたイントロは80年にセカンドアルバム「白いレガッタ」を引っさげて初来日してくれた時のライヴのオープニング・ナンバーだった「ネクスト・トゥー・ユー」です。アンコールの拍手の間深呼吸していたのですが、この曲を持ってこられたら漫画でよくある、頭のてっぺんで火山が爆発しているような気持ちでした。
そして、あ、そうかこの曲があったよねという感じで始まった史上最強のストーカーソング「見つめていたい」に場内は今日一番の歓声に包まれました。スタンドのお客さんが始めたスマホのライトを照らす数がどんどん増えてゆき、武道館いっぱいに星空が広がったかのようでした。終わるとメンバー全員並んでのご挨拶。うーん、やはりポリス最大のヒット曲となったこの曲で終わりなのかぁ…。
まだまだ止まらないアンコール拍手。最後にガツンと「キャント・スタンド・ルージング・ユー」から「白いレガッタ」「ビー・マイ・ガール サリー」へのメドレーなんかやってくれたらもうここでぶっ倒れても本望だとさえ思っていましたが、そうだ今夜はスティングのコンサートだった。アコギを手にステージに戻って来たスティングが静かに奏で始めたのは「フラジャイル」でした。うん、これもいい…いや、これの方がいい!とガツンとなどと思っていた前言撤回です。それほどの素晴らしさです。この曲の歌詞に込められた思い、そしてそれを最後に持ってきたのは、現在のこの世界に対するスティングからの警告なのかもしれません。ゾクゾクするほど素晴らしい「フラジャイル」の最後の一音が耳の奥で消えた時はため息しか出ず、力一杯の拍手と共に頼むからこのまま終わってとさえ思ったのです。この気持ちのまま武道館を後にしたかったのです。場内の電気がつき終演を告げるアナウンスとともに、再度大きくため息をつきました。
良いライヴだったとか、楽しかったなどと言う言葉とは明らかにレベルの違う時間でした。もちろん内容は文句なく素晴らしかったには違いないのですが、そこに色々な想いが加わっているからなのでしょう。最近自分が行く洋楽のコンサートも学生時代に大好きなアーティストを何十何年ぶりに見るというものが多くノスタルジックな部分があるのですが、スティングに関してもポリス時代から40年の付き合いであるものの前述のように懐かしいという感覚は全くありませんでした。リアルタイムでポリスと出会い、ずっとアイドルと言ってもいいような存在であり、スティング自身の活動も、ファンとして聴き続けている自分も中断することなく綿々と続いている事もあると思うし、新作のツアーでありながら集大成的な内容で、何よりも自分が望むロッカーとしてのスティングのライヴだった事も大きいと思います。現状を考えて、これだけの条件をすべて満たしてくれるアーティストは唯一無二です。それが今夜のコンサートが「レベルが違う」と感じた所以です。言葉にすれば簡単なのですが、これ以上の賛辞は思いつきません。
- SETLIST -
Heading South on the Great North Road
Synchronicity II
Spirits in the Material World
Englishman in New York
I Can't Stop Thinking About You
Every Little Thing She Does is Magic
One Fine Day
She's Too Good For Me
Mad About You
Fields of Gold
Petrol Head
Down, Down, Down
Shape of My Heart
Message in a Bottle
Ashes to Ashes
50,000
Walking on the Moon
So Lonely
Desert Rose
Roxanne / Ain't No Sunshine
Next to You
Every Breath You Take
Fragile
Posted by Ken2 at 23:59│Comments(0)