2018.6.1 白百合の宴@碑文谷・APIA40

Ken2

2018年06月01日 23:59

2018.6.1 白百合の宴~初夏の潮騒まつり~@碑文谷・APIA40



7年前に沖縄の音楽に出会いたくさんの自分にとって新しいミュージシャンの音と出会う中で、最初は民謡系とロック・ポップス系とのカテゴリーが存在して分けて考えていました。しばらくしてその分類にほとんど意味がない事に気付き始めたのです。ライヴを見に行っても双方のカテゴリーに収めていたミュージシャンが共演されていたり、レコーディングに参加されていたりと、そもそもカテゴリーに分けること自体に意味を感じなくなってきました。またそのライヴでの共演で新たなミュージシャンと出会うことが出来てその音楽にハマっていくうちに、あれ?この人とあの人も繋がっていたんだという70年代アメリカのウエストコーストミュージックシーンの相関図のような広がりが展開していったのです。今宵のライヴはまさしくそんな繋がり、沖縄の言葉で言うところの「結(ゆい)」を強く感じるものとなりました。



「白百合の宴」と銘打った今夜のイヴェントに行こうと最初決めたのはもーちゃんこと石垣よしゆきさんが久しぶりに東京に来てくれるし、ライヴハウスで聴かれるというポイントでした。予約してから詳細を見たら迎里計さんも出られる!ソロでも見に行くおふたりが一堂に会するなんてラッキーと思い、さらに、というよりこのイヴェントの核である池原コーイチさんも以前那覇での一合瓶ライヴで聴いたことがあるだけだったので、ちゃんと聴くとても良い機会となったのです。



学芸大学の住宅街の中にある会場に入ると、お店でのそれとはまた違ったライヴハウスならではの高揚感で期待は高まる一方です。トップバッターは池原コーイチさん。プロフィールを拝見すると多くのファンを持つ泡盛「白百合」「赤馬」を作られている池原酒造所の方でありながら、石垣島のフォークミュージック界の重鎮です。それくらいしか予備知識がないのですが、アコギで歌い始まるとなんとも骨太でありながら心の内側を繊細に描く曲でぐいぐいと引き込まれていきました。



今回のセットは一緒にツアーをされている石井幸枝さんとの共演です。幸枝さんは先週見に行った竹富島地唄いライヴにも参加されたフルート、オカリナ奏者で、コーイチさんの世界観に彩りと広がりを加えてくれています。その感じがなんとも心地よいのです。



途中からパーカッションのゆっきーこと国場幸孝さんも加わりさらに音の厚みが増します。こういう音響のしっかりした場でいくつもの楽器が交わるのを耳にするのが久しぶりだったので、バンドずきの自分にはもうそれだけで幸せです。



残念ながらコーイチさんの作品について語る知識はないのですが、安定感のあるセットでした。また随所にコーイチさんの後輩ミュージシャンを思い遣る心遣いや、逆に慕われる存在であることが感じられました。



短い休憩を挟んで二番手は迎里計さんの登場です。そのステージではいつも自分を笑顔にしてくれると同時に、心に訴えかけるように沁み込んでくる曲を聴かせてくれ、慌ただしい日々を過ごしている時をすこしゆっくりとそのペースをリセットしてくれます。今夜は石垣の先輩たちに囲まれてトークもいつになく島モードが入っていたようです。



島にいた頃はいつも観光客のお姉さんたちに恋していましたと歌われた「うりずんの人」でオープニング。もうすぐ音楽配信されるという寄り添うような優しい応援歌「がんばれの向こう側」、白百合を飲んで大人の階段昇った話からチューハイへと話が続きおなじみの「名も知らぬ友と夕暮れのガード下」へと続きます。計さんの書く歌詞は巧い表現ではないかも知れませんが等身大の日常を描いているので、歌われている光景や風景がたとえその場所にいったことがなくても脳裏にミュージックビデオのように流れてくるのです。



そして初めて計さんのライヴを見に行った時に、それまで朗らかな曲を歌う人という印象だった自分の心をがっちりと掴んだ深い曲「あざみの根っこ」を歌ってくれました。病魔に襲われた弟のために、棘で手を血だらけにしながらも自然の薬と言われるアザミの根っこ引き抜いて集めて行く兄を歌った切なくも奥深い歌で、毎回涙腺崩壊しそうになります。



先ほど書いた風景が浮かぶ曲の代表ともいえるのが竹富島を歌った「島の歩幅」です。このゆったりとした三拍子の曲は島の時や風の流れをリアルに感じさせてくれて心が安らぎます。今夜は幸枝さんがフルートで参加してくれて、さらに風を感じられる曲になって座っていた座席がどんどん柔らかく心地よいソファになっていくような感覚でした。



計さんのセットのラストは全員参加型コール&レスポンスの「ボッタリナオシ」です。数多くのイヴェントライヴ、対バンの経験を持つだけにその日初めて計さんを知ったお客さんをも自分の世界に引き込んでいくのはすごいなぁと毎回思います。今夜もみんな一緒に♪ボッタリ!のレスポンスで楽しい締めくくりとなりました。



そしてトリはいよいよもーちゃんこと石垣よしゆきさんの登場です。なにか大きくあたたかいもので自分を包み込んでくれるもーちゃんの歌声は、僕の耳をハートにして「俺はこの人に恋してるんじゃないか」と思っちゃうほどメロメロにしてくれるシンガーです。オープニング曲「10年」のハミングの歌い出しでもうとろけ始めました。



今回のステージは島の先輩ドラマー波照間剛さんがサポートに入り、それによりここ最近のもーちゃんのステージとは一味違ったものになっています。包み込むような優しさにギュっと力強さが加わったようなサウンドです。



その波照間さんの打ち出すビートでいつもより更にブルース色が濃くなった「呼吸」では持ってくるのを忘れてしまったので口(くち)カズーで間奏のソロが入りました。



3曲目は東京に居た頃に住んでいた街の大好きだった電車を歌った「中央線」。今年発表したアルバムにも収録されている軽妙なナンバーで、楽しいトークも交えてどんどん場を盛り上げていきます。



ここでせっかくだからともーちゃんが計さんをステージに招くといううれしいサプライズが。ふたりが同じライヴに出るだけでもウハウハなのにまさかの共演です。計さんの一五一会が加わって歌われたのはこれまた涙腺崩壊寸前曲「こだま」です。いつもこの曲を聴くとトロントロンになってしまうのですが、今夜は波照間さんのドラムスと計さんの奏でる音が加わり、両手で掬われて高みに持ち上げていかれるような感じになりました。



もーちゃんのセットのラストは、今回サポートでドラムスが加わると聞いて以来にわかに期待していた最近はなかなかライヴでは聴かれなくなった曲「永久の夢」です。もうイントロからキターーーーッ!という感じで、自分にとってキラーチューンであるこの曲はかっこいいとしか言いようがないほどかっこよく骨抜き状態で一緒に歌っちゃいました。曲が進につれて、終わらないで!終わらないで!って理不尽な思いに駆られたくらいです。



こうして3組のステージが終わりアンコールは出演者全員がステージに登場して「生活の柄」で応えてくれました。この曲の時にはみんなを仕切りながらも、それぞれを引き立てるように気配りを欠かさないコーイチさんの懐の深さを感じ、それによって出演者の後輩たちが気持ちよく楽しそうにセッションしている姿が印象的でした。



きっかけはもーちゃん出演だったから行ったライヴでしたが、トータルとしてとても楽しい一夜になりました。常々音楽の神様が住んでいらっしゃる場所だと思っている石垣島ですが、その思いはより一層確信へと変わりました。それは島では伝統芸能が盛んだとかいう事ではなく、生活の中に音楽が溢れているような場所である、そんな感覚です。それは冒頭に書いた「結」と共に音楽がもたらしてくれた幸福感として今夜のライヴの記憶に綴じ込みたいと思います。

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