2017.10.28 迎里計@渋谷・B.Y.G

Ken2

2017年10月28日 23:59

2017.10.28 迎里計@渋谷・B.Y.G



あくまで当"者"調べですが(まぁ調べちゃいませんが…)、おそらく人口比で最も多くのミュージシャンを育んでいる場所ではないかと思われる石垣島白保。そんな白保出身で東京を拠点に全国に歌を届けている迎里計さんの誕生日前夜ライヴに行ってきました。季節外れの台風がもたらす雨の中、公の場で流れに踊らされて仮装姿で乱痴気騒ぎをしている傍迷惑な輩たちを掻き分けつつやっとの思いで到着した伝説のライヴ会場B.Y.G。出遅れたための確保できた席は上層フロアの一番後ろというポジションで、お客さんの頭と頭の隙間から辛うじて時々計さんの姿の一部を目にする事ができるくらいだったのですが、先に結果を話してしまいますが、スピーカーから流れてくるきれいな音を聴きながら過ごす時は、「見る」事よりも「聴く」事に重点を置く本来のライヴのあるべき姿を体験しているかのようで、かえって音楽に溢れている体温や空気、感情やメッセージを強く感じることできたと思います。



場内が暗くなりSEに乗って登場した計さん、ギターの世持錬さん、ピアノとピアニカのTameZoさん。今夜もトリオ編成でのステージです。軽快に「生まり年音頭」でスタートし、満席のお客さんの身体が心地良く揺れ始めます。



1曲知らない曲を挟んで、計さんが一五一会を三線に持ち替えお気に入りのゆったりしたナンバー「島の歩幅」です。竹富島が大好きで良く訪れ、島の方達にたくさんの愛情をもらい、そのお返しになればと書いたというこの曲は、ライヴで聴く度に自分を竹富島へと運んでくれます。普段東京でせわしなく動く日々よりも明らかにゆったりと、そして大きすぎない歩幅で歩く、あの島の時の流れ、やふぁやふぁ心地よい風まで感じさせてくれるナンバーです。トークを交えつつ、お兄さんの中さんとのユニットBorn ti caftaの曲で結婚式を歌った「宴 」、BEGINの比嘉栄昇さんがバタヤンこと田端義夫さんに書いた「旅の終わりに聞く歌は 」と続き、ライヴでも定番となっているオリジナル曲「名も知らぬ友と夕暮れのガード下」では会場全体の手拍子も加わりとてもよい雰囲気です。御徒町ガード下の居酒屋で酎ハイを手に見ず知らずの隣席の人と楽しい時間を過ごすという、ごく普通の日常を切り取った歌なのですが、そのごく普通さが計さんの曲の魅力のひとつなのです。歌詞に歌われている光景が自分の中でも映像として浮かんでくるのです。それをメロディーに乗った歌詞を通して感じさせてくれる計さんの素直でまっすぐなコトバの歌い方のチカラでもあるのです。Born ti caftaのナンバー「赤瓦の上の三線弾き」「ハナウタ」と2曲続いて第一部は終了です。



休憩を挟んでの第二部は、いきなり「あざみの根っこ」で始まりました。この曲、春先のライヴで一目惚れならぬ一耳惚れした曲で、この曲の入ったCDを買おうとしたらまだ音源化されていないとの事だったのです。改めて今夜ライヴで聴くことができ、歌詞の展開が良質な絵本のページをめくっているかのようで、がっつりと心を持っていかれました。



ライヴツアーで全国すべての都道府県を周り、すでに2巡目に突入しているという計さんらしい、北海道から沖縄まで順番にご当地ネタを盛り込んだ「陸(おか)を敷いて歌まくら」は、まぁ長い曲だけれど次の県は何が出てくるのかとワクワクしながら楽しめる曲でした。ここからは計さん真骨頂とも言うべき人と人との結びつき、繋がりを歌った「がんばれの向こう側」「スヨウニ節」「ぴてぃしうた」「二十路の鳥」と続きます。育った環境も場所も違うのですが家族、友達、ご近所の人達との絆や縁はどこでも同じなんだよなぁ。そんなノスタルジックな想いに包まれます。



ポカポカした気持ちに浸っていると、さらに心の温度を上げてくれるキラーチューン「しずく」が始まりました。優しく肩を抱かれているようなこの曲にはいつも涙腺崩壊しそうになるのです。最後のラーララーのコーラスは場内大合唱でなんとも素敵です。後ろから見ていたので定かではありませんが、きっとみなさん笑顔でのコーラスだったに違いありません。これで終わりかなぁと思ったのですが「さぁみなさん!音遊びしましょうね!」という計さんのトークからBorn ti caftaの「音遊び 」、そしてコール&レスポンスが楽しい「ボッタリナオシ」とノリの良い2曲をラストに持って来てくれたので、スペースがカツカツの客席なれども、立ち上がってカチャーシーを踊り出す人も続出でした。



アンコールたは山本隆太さんが、お兄さんの迎里中さんと作ったナンバー「うたのうた」です。この曲は「うたの日」のイヴェントだけで歌っていこうとしていたのですが、隆太さんが亡くなられた今はどんどん歌ってこの曲に込められた想いを伝えていこうとしているという計さんの話に、最後のコーラスもその気持ちに応えるような大合唱でした。



計さんの作り出す音世界はとても言葉で表現するのが難しいと思っていました。沖縄音楽?いや、そこまでの感じではないなぁ。フォークソング?うーん、もうちょっとルーツ的な香りがするかなぁ、という風に堂々めぐりをしてしまうのです。過去にも他のアーティストのライヴで同じ事を感じた経験がありましたが、いま民謡と呼ばれている曲だって、出来た当時は手拍子に合わせて思いつくままに日々の暮らしや情景、恋心、辛さなどを歌いそれが定着していったものだと思うのです。時が流れ、楽器が広がり歌詞もメロディーも記録できる技術は発達し、日々の生活は複雑にはなっているものの、歌の生まれるところは同じなんだろうなぁ。そこにジャンルという垣根を作って分類したところで何の意味があるのだろう。何百年も伝わる八重山民謡も、計さんの作品も聴く人の心を穏やかなものにしたり、時には盛り上げ、励まし、時には寄り添い、心のしずくを流す手伝いをしたりという役割はなんら変わらないのです。色々と難しく考えなくても計さんの音楽は「迎里計」というジャンルでいいのです。そして自分はこのジャンルにすっかり魅了されているのです。



帰り際にお客さん全員がお土産で計さんから直接頂いたどら焼き。そこに押された焼印の計さんの笑顔と同じくらいの自分の笑顔と共に魑魅魍魎が跋扈する渋谷の街に踏み出し家路につきました。

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