2018.5.26 竹富島地唄いライブ@小岩・こだま

Ken2

2018年05月26日 23:59

2018.5.26 竹富島地唄いライブ@小岩・沖縄料理 居酒や こだま



今年も年に一度のお楽しみ、竹富島の地唄の方々が東京にやって来てくれる「地唄いライブ」が開催されました。信仰の息づく島にはたくさんの神事祭事があり、それを彩り司り奉納される音楽があり、その行事以外で、ましてや島以外どころか遠く離れた東京で聴くことができる機会はそうそうあるものではありません。と言ってもの決して堅苦しい宗教音楽といった類ではなく、島に綿々と受け継がれいる生活に根差した音楽が楽しめるのです。加えて祭りには欠かせない要素でもあるみんなで楽しむ要素も十分に織り込まれた、いわば数時間の竹富島体験なのです。会場も竹富ご出身の方たちや島が大好きなファンで満席です。



人口350人ほどの島の5人がステージに立つのですからどれだけ音楽が根付いている島なのかという事がわかります。新田長男さん、内盛正聖さん、野原健さん、萬木忍さん、そして上勢頭まりさん、この方たちは所謂私たちが考える「プロのミュージシャン」とはちょっと違い、普段は普通の生活をされていて神事祭事の際に奉納される舞踊などで唄三線を務める「地唄い」の方たちなのです。周囲9kmほどの竹富島にはアイノタ(東集落)、インノタ(西集落)、ナージ(仲筋集落)という3つの集落があります。と言ってもちょっと歩くと隣の集落に入る感じですし、実際歩いてみてもその境は良くわからず、観光客の自分にはひとつのこじんまりとした集落と思えるほどです。それでも集落ごとに神事祭事があったり、今日ステージにいる5人のみなさんもそれぞれの集落で地唄いを務めていらっしゃるので、いっしょに演奏することは滅多にないというので驚きです。



ライブで演奏された曲を詳しく順を追ってお話できれば良いのですが、島の神事祭事で演奏される曲についてはまったく知識もないのでそれ以外の知っている曲についてしか語ることはできませんし、あまり楽しくてメモを取る事さえ忘れていたので順不同になります。ただ島で古くから歌い継がれてきた祭事の曲は、素朴でありながらもそこにたくさんの想いや願い、祈りが込められている感じがして、緊張と別の背筋が伸びるような神聖である感覚と同時に、生活を垣間見ることができているようなそんな気持ちにさせてくれたことは確かです。



メンバーの中で最長老である新田長男さんは「今年も生きて東京に来ることができました」というご挨拶で場内の笑いを取り、唄三線に太鼓にと大活躍です。新田さんは拝顔するだけで御利益がありそうな、まるで八重山の神事に降臨されるみるく(弥勒)様のお面のような風貌で拝みたくなってしまうほどです。



お馴染みの民謡やポップスもたくさん織り込まれました。今年もこうしてみなさんに逢えた嬉しさをと披露された「めでたい節」では、島の宴会部長として君臨する内盛正聖さんが、さっそくお客さんを引き込んで面白おかしい踊りで場内を沸かせます。



野原健さんは、同級生である大島保克さんのナンバー「赤ゆら」を歌ってくれたり、お客さんも一緒に口ずさめる僕も大好きな曲「うりずんの詩」を聴かせてくれました。また笛の名手ですので厳粛な空気を醸し出す美しい笛の音を響かせてくれました。



自分は7年前までは小さな瓶に入った星の砂の故郷としてしか認識がなく、名前は知っていてもどこにあるかさえも知らなかった竹富島ですが、沖縄本島を旅して三線の音に興味を持ち、動画サイトで検索して偶然その演奏を耳にし、その音に呼ばれているような気がして数か月後には島の西桟橋に立っていたという出会いを持つ萬木忍さん。この偶然がなければ自分は今夜この場にはいなかったはずですし、今夜も忍さんの唄三線に自分を竹富島に向かわせた吸引力を改めて感じました。



竹富の歌姫、上勢頭まりさん。彼女の伸びる澄んだ声はそれだけで八重山民謡の持つ神々しい世界へと導いてくれます。昨年のライブでは新良幸人さん・サトウユウコさんの名曲「浄夜」を歌い上げてくださり鳥肌が立ったのですが、今回はやはりこのおふたりのアルバムにも収められている下地イサムさんの作品「あの夏の日」を歌われました。八重山方言とはまったく異なった、異なるどころかほぼ異国の言葉に近い感のある宮古方言で歌われている曲なのですが、しっかりと酔わせてくれました。



今夜はゲストがお二方いらっしゃいました。石垣島白保出身で自分も大好きなアーティストの迎里計さんは途中から一五一会でサポートに入りました。野原健さんとは義理のご兄弟で、白保に帰省するよりも多く竹富に行かれていると語っていらっしゃいました。



計さんはオリジナル曲「名も知らぬ友と夕暮れのガード下」を歌い、楽しいこの曲には宴会部長の内盛さんが盛り上げカズーで参加して、いつもにも増して楽しいヴァージョンになり、お客さんもみんな笑顔になっていました。



もうお一方はフルート、オカリナ奏者で、忍さんのレコーディングに参加されたりと交流のある石井幸枝さんです。忍さんのソロコーナーで歌われた名曲「とぅばらーま」では笛や合いの手のパートをフルートの音色で再現されたのですが、その優しい音色はまるで背景に満月を浮かび上がらせてステージに海の水面に輝く光の道を描いているかのようでした。



短い休憩を挟んでたっぷり聴かせてくれたセットですが、二部の始めでは飛び入りで幼稚園児くらいの男の子が武将の装束で扇を持って「渡りぞう・瀧落菅撹」の演奏に合わせて舞うというサプライズが。島のお子さんなのでしょうか、こうして受け継がれていることに「伝承」という二文字が浮かびました。そして「赤田首里殿内」では再び宴会部長が主役です。客席を周りターゲットを見つけては立たせて一緒に意味不明な踊りを踊り場内大盛り上がりです。選ばれたお客さんたちも恥ずかしがって固辞するわけでもなく、一緒にこの場を盛り上げます。居酒屋さんのライヴでありがちな演奏関係なしに飲み会の態で盛り上がり大騒ぎしているのとは違い、このような盛り上がりは大歓迎ですし、会場を埋めている全員の竹富島への深い愛情を感じました。



小さな島ながらここを発祥とする言わばご当地ソングの民謡も多数あり「仲筋ぬヌベーマ」「安里屋節」などを聴かせてくれましたが、当たり前の話なのですが竹富の方々が唄っているだけでものすごく「本物だぁ!」という感じがします。もちろんどこのどなたが唄ってもニセモノはないのですが、気分の問題なのでしょうね。そんな思いもあって今年のセットはいつもにも増して竹富島カラーが全面に押し出されていたように感じたのですが、あとから振り返ってみるとお馴染みのBEGINの曲が1曲もなかったのです。自分も好きなバンドですし、みんなが知っている曲もたくさんあり盛り上がるし、例えば「竹富島であいましょう」はある意味ご当地ソングのはずなのですが、BEGINナンバーが無かったことにより巧い表現ではないかもしれませんが「観光客向けライヴ感」が薄まったのかもしれません。それによってもっと竹富島の自然の姿を感じる結果となったのではないでしょうか。



休憩を挟んでたっぷり三時間近く楽しませてくれたライヴのラストは全員参加型の定番「安里屋ゆんた」の合いの手大合唱です。そして終わりかなぁと思ったら野原さんの「もう1曲やろう」という嬉しい言葉とともに思わぬ曲がゲストお2人も加えた出演者全員で披露されたのです。この曲「島の歩幅」は計さんの作品で竹富島に想いを馳せて作られた自分の大好きな曲なのです。タイトルの通り、島で流れる時間に身を委ねるとせかせかと歩くのではなくなるという、ものすごくわかる感覚をゆったりとしたメロディーに乗せて歌った曲なのです。この感覚は島の外の人が抱くものなのでしょうが、それを島の方々が歌われているとなんとも感慨深いものがあり、先ほどのBEGINの話とは手のひらを返したように矛盾してしまいますが、いつも計さんのソロで聴いているこの曲が今夜竹富島のご当地ソングになったような気がしました。とても素敵な選曲でした。



こうして今年の地唄いライブは幕を閉じました。毎年東京で竹富島の風を、空気を、時の流れを感じさせてもらえるのは正に「世果報(ゆがふ)」な時間であります。ライヴ中に忍さんが仰った「島の祭事で歌われる曲をこうゆう場で歌っていいものだろうかと考える部分もあります」という言葉がとても心に響き、それでも大切にされているこれらの曲を祭事の場ではなくライヴステージで聴かせてもらえた事は本当に「世果報」だと再認識すると同時に、毎年の事ながらいつの日かこれらの曲が本来の姿として演奏される場で体験してみたいという思いに駆られるのです。冒頭にも書いた通り音楽を生業とされているミュージシャンの方たちのライヴではないのですが、こうして受け継がれてきた音楽をきっと子供のころから聴いて育ち、練習を繰り返し習得し生活の一部として演奏し唄われている事に、これこそが音楽の原点なんだろうなと感じた夜でした。

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