2018.4.14 Ed Sheeran@日本武道館

Ken2

2018年04月14日 23:59

2018.4.14 Ed Sheeran@日本武道館



自分が行く洋楽のコンサートと言えば、30年以上好きなミュージシャンとか、再結成して20年ぶりの来日と言った類のものばかりですが、今夜は旬のアーティストです。その上告白すると、自分は名前やヒット曲は薄っすら知っていた程度で、昨年初めにリリースされたシングル「Castle on the Hill」を試しに聴いてみたらどハマりして、アルバム「÷」がヘヴィロテ盤になり、後追いでそれまでの作品を聴いたニワカもんなのです。その頃に来日公演が発表され、ちゃっかりチケット抽選にも当たったものの、当初の予定が自転車事故での骨折で延期になり、ようやくこの日を迎えたのです。通いなれた武道館にワクワク入ると親子連れを含めて幅広い年齢層の聴衆で超満員でした。ステージ背後の大きなヴィジョンと上部に下がった4枚にすでに「÷」ロゴが映し出されていて、さらに期待は高まります。



開演時間ちょうどに客電が落ちると同時に総立ちの場内。みんなこの時を心待ちにしていたのですもんね。アコギ1本を提げたエドが飄々とステージに登場するともう割れんばかりの歓声で、それに笑顔で応えてスタートです。エドのステージはループ・ペダルを駆使してギター、ギターのボディーを叩くパーカッションパート、さらにコーラスまでその場で多重録音し再生して音を重ねていき、たったひとりで重厚感のある音を作り上げていくのですが、オープニングのイントロからその工程にわかっていてもスゲーっ!となった上、その曲が「Castle on the Hill」だったものですからもう体内のアドレナリンが走り回りだしました。いやぁーホントいい曲!ヴィジョンには車から見える流れる景色が映し出されて半端ない歌詞とのシンクロです。すでにお客さんも一緒に歌っていてなんとも武道館がライヴハウスになったかのような心地よさです。



2曲目は「÷」の冒頭の曲「Eraser」。ラップ部分はルーパーから流れる音に乗せて、マイクを手に動き回っての熱演です。現在は各国をスタジアムツアーで周っているだけに、アリーナクラスの会場でこのライヴを体験できている自分たちは幸せ者です。



「また東京に戻ることができて嬉しいよ!でも悲しい事に今夜が最後なんだよね。次の曲もみんな歌詞を知っていたら一緒に歌ってね!」と言うトークから始まったのはファーストアルバム収録の大ヒット曲「The A Team」。もちろんこれは歌えますって!



セカンドアルバム「×」からの「Don't 」と「÷」収録の「New Man」の2曲をオシャレにマッシュアップで披露して「Dive」へ。途中何度もこの音すべてひとりで作り上げているんだよなぁと思い出したように感心しちゃいました。ギターの音はもちろん、コーラスも当たり前の事ですが本人の声なのですからきれいに重なって場内に響き渡るのです。



多くを語る訳でもなく次々と曲が繰り出されるのですが、曲を通してコミュニケーションはバッチリで、勝手な思い込みかもしれないのですが全員参加型の一体感を感じるのです。そんな中「次の曲はみんな手を挙げて!そう!それを上下に振って!うん、いい感じだよ!」と始まったのは「Bloodstream」。CDではまぁ良い曲だなぁくらいだったのですが、コンサートでの高揚感が加わるのもあるのですがライヴで聴くとめちゃめちゃ深く深く響いてきました。特に中盤部のコーラスを重ねていき、最後にそれに乗せて高いパートを熱唱するところの美しさには思わずため息出てしまった程でした。



そして爪弾くようなこのイントロは…「÷」の中でも大好きな曲「Happier」です。彼の曲はそのメロディの美しさが自分にとって最大の魅力なのですが、この曲はまさにその代表のような曲です。そのメロディに乗せて別れた彼女が別の男と歩いているのを見て、その笑顔が僕といた時よりも幸せそうだったという切ない歌詞を歌い上げるのですからたまりません。うっとりと聴き惚れてしまいました。曲が終わったあと横の妻が「こんなにきれいな曲を書いてもらえるなら、エドと別れてみたい!」と漏らしたのが忘れられません。前半のハイライト的な1曲でした。



次はセカンドアルバム「×」のツアーのオープニングチューンだった「I'm a Mess」です。この曲も中盤の重ねたコーラスにお客さんの歌と手拍子が入り一緒に作り上げていく感じがなんとも楽しい展開です。ヴィジョンに映し出される映像も、単に生中継のものだけではなく、それに用意されている映像がプラスされて視覚的にも楽しませてくれています。



ここでEd's choiceと呼ばれているその日によって曲が変わるコーナーです。自分としては「÷」の中の「Supermarket Flowers」を期待していたのですが今宵選ばれたのは「×」に収録されている「Tenerife Sea」でした。やはり願った通りにはいかないよなぁと思っていたら、まぁこの曲が素晴らしかったこと!切々と歌われるラヴソングなのですが、これまたコーラスの"Lumiere, darling, Lumiere over me"部分が重ねられて、それがなんとも美しくて雲の隙間から光が差し込んできているかのようでした。



フィドルの音をアコギで奏でて始まったのは、シーラン家がアイリッシュ系である事を感じさせる「Galway Girl」です。できるものならリバーダンスのステップを踏みたくなるようなノリの良さです。



続いてはニーナ・シモンのヒット曲、そして最近ではマイケル・ブーブレがヒットさせた「Feeling Good」のカヴァーを導入部として、そこからメドレーのように「 I See Fire」へと繋がっていきました。この曲も「Bloodstream」同様にライヴでの方がCDなどで聴くよりずっと重厚さがあり素晴らかったです。



ここでまた予想外のマッシュアップの登場です。あとから調べてみても前のアルバムのツアーでは定番だったものの、昨年から130回以上世界中で行われている今回の「÷」ツアーでは今夜が初めてのセットインだったのですが、同じアルバム「×」から「One」を導入部として、待ってました!大好きな「Photograph」へと繋げたのです。その驚きもさることながら「Photograph」の素晴らしさにはもう言葉もありません。スマホのライトが武道館いっぱいに満天の星空のように広がり、大合唱も加わりこれこそライヴの醍醐味という相乗効果でさらに曲の魅力を増していました。



その余韻の中続いた「Perfect」もしっとりとした美しい曲なので、「One」からのこの3曲が一連の流れであるかのようで大満足でした。



ここからはラストスパートと言った感じで、まずはこれまたアイリッシュ・フレーヴァー溢れる曲調に乗せエドの祖父母の出会いの物語を歌った「Nancy Mulligan」です。陽気でダンサブルな曲調ながら、同じ島で生まれながらも祖父は北アイルランドのプロテスタント、祖母ナンシーはアイルランド南部のカトリック。このふたりが出会い、恋に落ち、家族の猛反対にもかかわらず結ばれたという内容で、まるで焚火を囲んでみんなで歌い踊り、エドの祖父母の門出を祝福しているかのような場内の雰囲気です。



そしてその焚火の火がおちてふたりはスローダンスを踊り始めたような流れでの「Thinking Out Loud」では、再び場内がスマホのライトの星でいっぱいになり、ヴィジョンには星の下で永遠の想いを伝えるカップルのスケッチがストーリーを織り成していきます。もう素敵過ぎます。シンプルなラヴソングなのですが、それで充分です。ラヴストーリーを複雑にしちゃうのは自分たちなのですからね。そんな純粋な気持ちにさせてくれた武道館が正に"Maybe we found love right where we are" (僕たちきっとここで愛を見つけたんだ)というサビの歌詞の"where we are"になったのではないでしょうか。還暦間近のオジサンが「70になっても今と同じように愛しているよ」って言う歌詞にキュンキュンしたところでそんなに先の事ではないのですが、そんなオジサンさえもロマンティックな気分にさせてしまったのですから、ヴィジョンに描かれた星と場内に煌めいたスマホライトはエドの放った魔法の粉だったのかもしれません。(これ、きっと後から読んで小っ恥ずかしくなるんだろうなぁ…)



ラストはまずリズムを作ってから「さぁみんな!この曲はみんなに参加して欲しいんだ!」と、コール&レスポンスからコーラス部分の練習をしてから「Sing」へ。オオオオーオオオ オオオオー!を繰り返すコーラスなので歌詞もへったくれもなく全員参加の大合唱です。よくライヴで観客が一緒に歌うことに賛否両論ありますが、こういう参加型のコンサートで文句を言っている人がいたらそれはお門違いってもんでしょう。ミュージシャンのパフォーマンスだけでなく、演出、そして聴衆の作りだす雰囲気まで含めての全体像がコンサートだと思うのです。それぞれ好みが違うのは認めますが、入り込んだもん、楽しんだもん勝ちですからね。



そのままオオオオーオオオ…のコーラスを繰り返し続けさせて、その声がアンコール代わりでステージから掃けたエドが戻ってきた時にはサッカー日本代表のユニフォーム姿で、背中には生まれた年の91とSHEERANのマーキングです。そして横に置かれたシンセサイザーが叩き出すマリンバ風の音が大歓声を誘発します。そうです、昨年の大ヒット曲「Shape of You」です。正直言って自分はこの曲の魅力がさっぱりわからないのですが、やはり生でも変わらなかったです。ただアンコールの勢いで盛り上がっちゃいましたがね。



「もう1曲やろうか!」の声と共に同じく自分にはさっぱりなのだけど盛り上がってしまった「You Need Me, I Don't Need You」です。エドはギターの弦を切る熱演で、高速ラップも入るこの曲はよくこんなエネルギーが最後に残っていたなぁと思わせる程です。途中日の丸の旗が渡されてそれを振りながら縦横無尽にセットを動き回り、ステージ前方に客席を背に旗を広げて観客との記念撮影まで飛び出しました。インスタ世代の若者です。「ありがとう東京!また来年には戻ってくるよ!」という挨拶と共に100分のライヴは終幕です。



今をときめく人気アーティストなだけに勢い中心みたいなものがあるのかなと思って臨んだ今夜のライヴですが、この27歳のスーパースターはしっかりと地に足がついている人でした。機材や演出を駆使してたったひとりのステージをこれだけハイクォリティな時間に仕上げているのはもちろんすごいことなのですが、それ以上に根底にあるのは「曲」の良さなのだと改めて思いました。もしこのセットを小さなライヴハウスで簡単な照明のステージでやったとしても、同じように感銘を受けた事でしょう。そしてかねがねライヴはアーティストと聴衆で共に作り上げる時間だと思っている自分にとって、その思いを立証するかのようなコンサートでした。



=setlist=
Castle on the Hill
Eraser
The A Team
Don't / New Man
Dive
Bloodstream
Happier
I'm a Mess
Tenerife Sea
Galway Girl
Feeling Good / I See Fire
One / Photograph
Perfect
Nancy Mulligan
Thinking Out Loud
Sing
-Encore-
Shape of You
You Need Me, I Don't Need You



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